AIを活用した誰一人取り残さないコミュニケーション(NTT東日本さま)

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防犯・防災・見守りをはじめとしたシーンで導入が広がっている「シン・オートコール」と、高齢者向け見守りツールとして生まれた「L1m-net(エルワンネット)」は、“誰一人取り残さない情報伝達”をキーワードとしシステム連携をおこない、地域課題解決に取り組んでいます。 デジタル機器の操作が苦手な方への情報伝達が課題となっている中で、両サービス、そして今回の連携がどのように“誰一人取り残さない情報伝達”を実現しようとしているのかを、「シン・オートコール」の発明者であるNTT DXパートナー/NTT東日本の鈴木巧さん、NTT東日本の吉田直哉さんにお話を伺いました。

今、AIを活用した自動音声配信で注目が集まっている「シン・オートコール」

 NTT東日本の「シン・オートコール」は、最新のクラウドやAI技術と、誰もが使い慣れている電話を組み合わせた自動音声一斉配信システムです。デジタル機器の操作が苦手な高齢者でも、タイムリーに情報を受信できるしくみとして、防犯・防災・見守りをはじめとしたさまざまなシーンで活用が広がっています。
 特に、緊急性の高い災害情報などは、これまで防災無線を活用した情報伝達が主流でしたが、気密性の高い住宅が増え、防災無線の情報が聞こえづらくなっている現状があります。各自治体は、SNSやスマホアプリでの情報提供を進めているものの、デジタル機器の操作が苦手な高齢者に対しては、1軒ずつ電話をかけて連絡をしているケースもあります。

 そんな中、「シン・オートコール」はクラウドと生成AIを活用して、一斉架電をおこなうことで、架電業務をDX化しながら、若年層から高齢者まで世代を問わずスムーズな情報伝達をおこなえるシステムとして、今注目を集めています。

DXとスムーズな情報伝達を両立するしくみ

「シン・オートコール」は、発信者(自治体)がテキストを入力すると、AIが音声に変換して架電するしくみです。受け手(住民)は、かかってきた電話に対し「はい」「いいえ」「こういう状況です」などを声で応答します。応答内容は、AIがテキストに変換して記録し、発信者が確認することができます。

「シン・オートコール」の概要

 従来のオートコールサービスとの大きな違いは、AIを活用している点です。「シン・オートコール」では、AI音声や肉声を活用して固定電話への一斉伝達をおこなうことができ、デジタル機器の操作が苦手な方にもタイムリーに情報を届けられ、受け手が”声”で応答した内容を記録することも可能です。そのことで、受け手の状況を把握し適切な支援につなげることが可能となります。また、本一連のしくみは特許も取得されております。

シン・オートコール発明者の鈴木巧さん

「システム構成の大きな特徴として、生成AIをふくめAWS内の機能を組み合わることで、地域の課題に合わせたしくみにフィッティングできることがあげられます。
 柔軟性が高いしくみだからこそ、大切なのは“本当の課題”や、“誰にとって嬉しいしくみなのか”を見極めることです。よく、タブレットを入れたい、アプリを導入したいというお話をいただくのですが、目的を明確にしないと、結局使われないしくみになってしまう。“きちんと住民の方のお声を聴くことが必要”ということは、自治体の方に本当にお伝えしたい部分ですね」
(※システム構成図は本記事の下部をご覧ください)

と話すのは、この一連のしくみの発明者である鈴木巧さん。 鈴木さんは、もともと人的セキュリティサービスの主管として標的型メールの訓練サービスの開発に携わっており、「メールの訓練があるなら、電話やSMSの訓練サービスがあってもいいのではないか」と、開発を始めたことが、「シン・オートコール」をスタートするきっかけになったといいます。

リアルな声を形にすることで「誰一人取り残さない」ためのヒントを見つけた

「シン・オートコール」が大事にしているのは、“実際に使う方と一緒につくる”ことで、AIを活用したしくみも、地域住民の方と一緒につくる中で生まれたそうです。

「当初は、かかってきた電話に対して『はい』なら1。『いいえ』なら2を押してください。というように、番号をプッシュして応答するしくみでした。ところが、実際に地域のご高齢者を集めて使っていただくと、『どうやって(番号を)押せばいいんだ…』という反応が見られました」
(吉田さん)

 普段スマホで電話に出ることはできても、キーパッドの出し方がわからない方や、操作に不安を抱えている方が一定数いらっしゃるという現状。これが、「シン・オートコール」の開発が進む中で得られた地域住民の方のリアルな反応だったといいます。

NTT東日本の吉田直哉さん

「高齢者の方に、『どうしてアプリが嫌いなんですか?』と聞いてみたこともあるのですが、操作が分からないという不安もあるが、いちばんは『何かあったときに、息子や娘に助けを求めないといけないのが嫌』というご意見が強かったんです。それを聞いて“使い慣れたものでなければ、結局使われなくなってしまうのだろうな”と感じました」と当時、地域住民の方に開発中の「シン・オートコール」を使っていただいた際の反応を話すNTT東日本の吉田直哉さん。

 無理やり操作に慣れさせるのではなく、普段から誰もが使い慣れたしくみを使うことが、“誰一人取り残さない情報伝達”には必要だ!と、地域の方とのお話を踏まえ「シン・オートコール」は生成AIを活用した”声“での応答がおこなえるサービスへと進化を遂げています。

「L1m-net」との連携で広がる可能性

「『L1m-net』は、操作がシンプルなところがすごくいいですよね!」
「電話ですべてが解決できるかというと、そうではない。こういう、シンプルなハードウェアを使った情報伝達が適している方は、想像以上にたくさんいらっしゃると思います。カードを使うというのも、すごく秀逸なんですよ」
さまざまな地域の方に「L1m-net」のお話をする中で、毎回「すごくいいツールだ」と思ってもらえている実感があるといいます。

(吉田さん)

L1mボタン

「L1m-net」で必要な操作といえば、カードを置いてボタンを押したり、音量をつまみで調整したりと非常にシンプルなもの。
 自治体や支援者等から発信された情報は、端末から音声メッセージで再生されるので、電話のように受話器をとったり、着信ボタンを押すという操作は不要です。そのため、電話をお持ちでない方や、寝たきり等で受話器をとることが難しい方にも情報を届けることができます。デジタル機器への苦手意識がある方にも受け入れられやすいしくみでありながら、ICTツールの利点を生かして双方向でコミュニケーションをとれることが、大きな特徴です。


「電話、SMS、スマホも電話もないという方には『L1m-net』、それぞれに合った方法で情報伝達を行うことが、“誰一人取り残さない情報伝達”につながると思います。こうしたハードウェア自体は世の中にたくさんあると思うのですが、きちんと地域の方とお話ししながら作って、かつユースケースがしっかりしているものはなかったですね。そこが連携の決め手です。将来、様々な利用シーンが出てきたときにも、自分たちでお話を聞いて作っている方となら、一緒に色々作っていけるのではないかという期待もありました」
 また、地域住民の方、それぞれに合わせた方法で情報伝達をおこなえるようになった他、発信者からは、「シン・オートコールの応答結果に危険なワード(『助けて』や『けがをしている』等)が含まれているとき、現在はそれを管理画面で見なければわからないのですが、それをお知らせする機能にニーズがあり、『L1m-net』と連携していることで、たとえば端末にパトライトをつなぎ、緊急性の高いワードが含まれた応答結果が来た時に光と音で通知するといったことがすぐにできそうだと分かっているので、課題解決に向けた開発速度が速いなと感じますね」と、この連携は開発者視点でも、メリットが大きいと、鈴木さんは話します。

「これまで両製品がユースケースを作り上げてきた、防犯・防災・見守りのシーンでの活用はもちろんのこと、電話のあるご家庭でも、『L1m-net』は活用できると思うんですよね。たとえば電話の横に設置して、かかってくると『おつなぎしますか?』とコンシェルジュのように聞いてくれたり、怪しい番号からの電話だったら遮断してくれたり。一度電話に出ても、会話の流れから『その電話、詐欺です!』と『L1m-net』が伝えてくれて、カードを置いてボタンを押せば、警察に通報してあげるなど。これが実現したら、既存の特殊詐欺アダプタでは到底できないことが可能になります」
(鈴木さん)

と、両製品が連携することでの活用シーンは、これから大きな広がりを見せそうです。

今後の展望

今後の展望について、両名にお聞きしました。

「“人間の行動や言語などに着目して、サポートできるしくみ”といえば『シン・オートコール』と呼ばれる世界観を作りたい。特許は20年有効なので、今から20年後を想像すると何が変わるか…実は、コミュニケーションスタイルはあまり変わらないと思います。電話というのは150年ありますから、あと20年でなくなるとは到底思えないです。電話機は変わると思います。でも、電話というコミュニケーション手段というのはあるはずなんです。そこで選ばれるものになりたいなと思いますね。今の理念を大事に、時代の変化に合わせたしくみを、世の中の方々とつくっていきたいと考えております。財産は持っていってもしょうがなく、投資をしていかないと増えないと考えており、その投資の仕方はどうしますか?と言った際に、日新システムズさんのように理念のある方と一緒に育てていくというやり方が正しい知的財産の使い方だと考えています」
鈴木さんは20年後の未来に思いを馳せます。

また、吉田さんは、
「防災や防犯の中でも、海外の方々との会話というのも無視はできない世の中になってきています。これからより多様化した世の中、よりボーダレスになってくると思います。仲介してより良いコミュニケーションが取れるような、安全で楽しい会話ができるようなものを、皆さんと一緒に作っていきたいなと思います。僕らだけじゃ絶対できないので、“いろんな人のアイデアを持って、それを共有して、より良い世の中をつくっていきましょう”という理念を実践していきたいです」
と話します。

“実際に使う人と一緒になって作る“という理念は変えずに世の中の変化にあわせ、使う人にとって嬉しいしくみをつくりたい!
「シン・オートコール」は、その想いを胸に、”誰一人取り残さない情報伝達“の実現に向かって歩き続けます。

最後までお読みいただいた皆様へ

「シン・オートコール」のシステム構成図は下記よりダウンロードいただけます。ぜひお気軽にダウンロードください。

ダウンロードはこちら

【取材先】
東日本電信電話株式会社(NTT東日本)特殊局 局長補佐
株式会社NTT DXパートナー シニアインベンター
鈴木 巧さん

東日本電信電話株式会社(NTT東日本)地域基盤ビジネス部 公共ビジネス推進グループ
防災インフラDX推進担当チーフ
吉田 直哉さん

東日本エリアで通信サービスを提供するとともに、地域の課題解決や価値創造にも取り組んでいるNTT東日本。2022年にグループ会社として設立されたNTT DXパートナーは、DXコンサルティングからデジタルプラットフォームの実装・推進まで共創・伴走型でワンストップ支援を実施することで、地域・社会課題解決に貢献している。

東日本電信電話株式会社(NTT東日本) ~シン・オートコール〜
https://business.ntt-east.co.jp/content/cloudsolution/ih_column-11.html

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